トンネルの向こうへ
個人的なことになりますが、昨年の10月からロードバイクを始めました。
何か明確な目標があったわけではないけど、とにかく身体を動かすことを始めたいなと思っていたタイミングで、ロードバイクでお店に来てくださるお客様の話を聞き、ほとんど勢いで初めてのロードバイクを購入。
そして自分でも少し意外なほどに、乗れば乗るほど楽しくなって今に至ります。
長い距離を乗ることはたまにしかなくて、ほとんどの場合、デスクワークやお店の仕事を始める前の早朝に1~2時間乗るだけなので、通常の行動範囲は必然的にここから半径約20kmくらい。
そんな短い距離でも、信号も交通量も少ないこの田舎道で、ひとり黙々とペダルを回しながら、それまで気にも留めなかったようなことに気がつくことがあります。
そのひとつが、田舎道にあるトンネルのこと。
自然溢れるこの辺りには、細く曲がりくねった坂道と共に、無数の真っ暗で狭いトンネルがあります。そしてそれらのトンネルのほとんどは、坂を上りきったところにあるのです。
トンネルが坂の頂上にあるのは、よく考えてみれば当たり前のことかもしれないのだけど、ここに住み始めて10年以上が経ち、この辺りの道にも随分詳しくなったつもりでも、車で移動しているときには考えたこともなかった。
坂の勾配のきつさや長さは様々だけど、黙々とペダルを回しながら無理のないペースで坂を上っていくと、そのてっぺんに真っ暗なトンネルが姿を表します。
サングラスをつけたままうっかり入ってしまうと、ほとんど何も見えないくらいに暗いトンネルもあって、後ろから来る車と側溝に気をつけながら出口の光を目指していると、大抵ふっとペダルが軽くなり、トンネルを出る頃には下り坂が始まります。
きつい上り坂と最後に待ち受ける真っ暗なトンネル。そこを抜けた先にある光と解放感。
ぼくたちの日々も、きっとこんな道の連続なんじゃないか、とロードバイクに乗りながら常々思っていました。
自分から困難な道を選んでチャレンジしていくこともあるけど、否応なしに大変な状況に放り込まれることもある。いったいこの状況はいつまで続くのだろうかと途方に暮れることもあります。
そんなとき、自分の正気を保ち続けるためにできることは、日々のやるべきことを淡々と確実に、そしてできれば焦らず大切にこなしていくこと。
黙々とペダルを回し続けるように、目の前のことをひとつ一つ乗り越えていくこと。
どうしてもきつい時には、無理をせずに心身を休めること。
あともう少しというところで、完全な暗闇が訪れるかもしれないけど、その先にある光を信じて、少しずつでいいから前に進み続けること。
下り坂に差し掛かると、ペダルを回さなくてもグングン加速して、ブレーキをかけなければ結構なスピードが出ます。足も呼吸も楽になるけど、路面や周囲の状況に対する集中力はグッと高まる。
それと同じように、困難が過ぎ去り、物事が上手くまわり始めたときには、気持ちも体も楽になるけど、そんなときこそ周りの人への感謝の気持ちを忘れず、驕らず謙虚な気持ちで日々を過ごすことを心がけたいです。
そしてまたいつか遭遇するであろう、きつい上り坂に備えて、心身ともに良い準備をしておく。
長閑で平坦な道のように、何事もない平和で穏やかな日々もあります。
そんな日々なら、爽やかなそよ風を頬に感じながら鼻歌まじりにペダルを回すように、そしてこの世界の美しい景色をゆっくりと堪能するように、美味しいものを食べ、会話を楽しみ、生きていることの幸せを噛み締めながら過ごせばいいと思う。
大切なことはだたひとつ。それがきつい上り坂でも、真っ暗なトンネルでも、下り坂でも平坦な道でも、前に進むこと。
自分の意思で、自らの足でペダルを回して、きついときも楽なときも、少しずつでも前に進んでいくこと。
ぼくがロードバイクに乗るときは、ほとんどの場合早朝ということもあっていつも一人だから、坂道を上るときは、ただ一人でヒィヒィ言いながらペダルを回しているのだけど、人生におけるきつい日々には、並走してくれる人たちや、沿道で励ましてくれる人たちもいるはずです。
だから余計な心配はしないで前に進もう。
時にはほとんど進んでいないんじゃないかと思えるほどに状況が変わらないこともあるし、もう一歩も前に進みたくなくて、その場に座り込んでしまいたいと思うくらい心身が疲れ果ててしまうこともあります。それでも生きている限り前には進んでいるはず。
コロナ禍でカフェを含む飲食店や、他にもいろいろな業種に大きな影響が出ています。ぼくたちのeatos Baked Sweetsも、酒類の提供やディナータイムのあるお店ほどではないですが、テイクアウト営業に切り替えたり、席数を減らしたりと多少なりとも影響を受けています。
今がどれくらいきつい上り坂なのかはわからないけど、決して何もしなくてもグングン加速していくような道ではない。この先どこまで続くのか、真っ暗闇が待ち受けているのかどうかもわからないけど、今できることにひとつずつ取り組みながら、光の先にある光景を想像して、共に走ってくれる人や沿道で応援してくれる人たちと共に、きつい坂道さえも楽しんでいきたい。
互いに支え合い、励まし合いながら、「しかしきついねぇ」って苦笑いしながら、この人生で出会うことのできたたくさんの人たちと共に、前に進んでいきたいです。